
放課後の教室。夕日の差し込む窓際で、きんぱつは机の上にちょこんと座り、一枚の年表を広げていた。
それは、ティーン雑誌『ニコラ』の歴代編集長と副編集長が記された、少しマニアックな歴史の記録だった。

※編集長名の下のカッコ内は副編集長名
少し離れた席では、紫の帽子を深くかぶったマジカルが、水晶玉を覗き込みながら静かにタロットカードをめくっている。
「ねえ、マジカル。ちょっとこれ見てよ」
きんぱつが年表を指をさしながら、感心したような声をあげる。
「ニコラって創刊以来、ず~っと”副編集長が次の編集長に昇格する”っていう流れが続いてるの。初代の宮本さんから始まって、ずっとバトンを繋いでるみたいで、なんだか伝統を感じるなぁ」
これを聞いたマジカル。水晶玉から目を離し、静かに頷く。
「そうですね。6代目の久保田編集長は『代行』という形ではありましたが、副編集長からトップに立ったという点では同じです。そこまでは、ずっと編集部内での生え抜きがトップを務めるのがニコラの『掟』のようなものだったんです」
「でも――」
きんぱつが年表の後半部分を覗き込む。
「7代目の馬場編集長は、副編集長を経験してないじゃん。確か『ニコプチ』の編集長から、そのままニコラの編集長に異動してきたんじゃなかったっけ?」
マジカルはふっと微笑み、補足するように言いう。
「鋭いですね。でも実は、馬場編集長には隠れた物語があるんです。彼女は2007年まで、ニコラ編集部に在籍していました。でもニコプチ立ち上げの際、山元さんから引き抜かれてプチ編集部に異動して、あちらで副編集長、さらには編集長まで務め上げました。つまり、一度ニコラを離れて修行を積み、再び『ニコラの人間』として戻ってきたのです。たとえ直近の副編集長経験はなくとも、ニコラのDNAを継いでいることに変わりはないのです」
「へー、そうなんだ! いわば凱旋帰国みたいな感じだね」
きんぱつは納得したように大きく頷くと、さらに年表の最後、《2025年12月》に記された最新の文字を見つめる。
「じゃあ、新しく就任した若狭編集長はどうなの? 彼女もやっぱり、昔ニコラにいたこととかあったりする?」
その問いに、マジカルの表情が少しだけ真剣なものに変わる。
「――そこが、今回の大きな転換点なのです。今度の若狭編集長こそ、ニコラ編集部に一度も在籍した経験がない、史上初めての編集長になるのです」
「えーっ!? 一度も?」
きんぱつが驚いて身を乗り出す。
「そうです。彼女は2011年に新潮社に入社すると、翌年にニコプチ編集部に配属されました。そして以後、一貫してプチの編集に携わってきたのです」
「なるほど~」
「つまり、今回の人事は、これまでのニコラが守ってきた『内部の血筋』を初めて打破した、歴史的な人事といえるのです。全く新しい風が、今のニコラに吹こうとしている――水晶玉には、そんな変化の予兆が見える気がします」
夕暮れの教室の窓の外。その時、淡い光を透かしながら、ひらひらと白い雪が舞いはじめる。
二人は、新時代を迎えた雑誌の未来に思いを馳せながら、静かに年表を閉じた。