
放課後のスターバックス。
甘いフラペチーノの香りと、楽しげな話し声が混ざり合う店内のソファ席で、きんぱつ、ぽにて、まじかるという、いつもの仲良し3人組がストローをくわえていた。
「あー、生き返るわー。やっぱ放課後の糖分補給しか勝たん」
派手なネイルの指でカップを回しながら、きんぱつが言った。
「ほんとだね。今日の実力テスト、マジで疲れたし」
ぽにてが同意して、大きくため息をつく。
向かいに座るまじかるは、静かにホットティーをすすりながら、どこか遠くを見つめているような、いつものミステリアスな雰囲気を漂わせていた。
ふと、思いついたように、きんぱつが身を乗り出す。
「ねーねー、まじかる。こうやって、ただダベるのもいいけどさ、なんか刺激欲しくない? ニコラに関するクイズ出してよ。マジで激ムズなやつ! ウチらが絶対答えらんないような」
まじかるは、ゆっくりとティーカップをソーサーに戻すと、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「承知いたしました。刺激をお求めですね。では、出題します」
まじかるの声のトーンが、少しだけ低くなる。
「もしも、『ニコラ検定』なるものが存在したならば、間違いなく1級クラス。現ニコ読の99%が不正解となるであろう、歴史的難問でございます」
「うわっ、ハードル上げてきた!そうこなくっちゃ!」
きんぱつが目を輝かせる。
ぽにての表情も、わくわくしたものに変わった。
まじかるは、もったいぶるように一呼吸置いてから、ゆっくりと問題を告げる。
「現役ニコモ、そして歴代のニコモ卒業生を含む、およそ30年にわたる歴史の中で、そのお名前に漢字の『桃』が入っている人物は、たった1人しかいません。さて、それは誰でしょう?」
「えっ、嘘!? たった1人?」
きんぱつが素っ頓狂な声を上げた。
「30年だよ? めっちゃいそうじゃん!えーと、誰だろ?」
そのまま、頭を抱えるようにして考え込む。
「うーん、『桃』かぁ~。最近の子にはいないよね? かなり昔の卒業生であることは間違いない。うぅ・・・」
一方のぽにては、腕組みをして天井を見上げる。
二人はしばらくの間、フラペチーノの氷が溶けるのも忘れて頭をひねっていたが、やがて力尽きたように肩を落とした。
「マジで思いつかん。全然出てこないわ。ギブ! 降参!」
「私も無理。全然わかんないや」
二人の降参宣言を聞き届け、まじかるが静かに正解を発表した。
「正解は、2000年実施、第3回ニコラモデルオーディションの合格者、小口桃子(おぐち・ももこ)さんです」
きんぱつと、ぽにての頭の上に、巨大なハテナマークが浮かんだ。
「だ・・・だれ?」
きんぱつが正直すぎる感想を漏らす。
まじかるは、ふふっと静かに笑った。
「ご存知ないのも仕方ありません。なにしろ今から25年以上もの前のお話ですから。当時の誌面を知る者は、今やほとんどいないでしょう」
「25年前かぁ・・・。そりゃあウチら生まれてないし、わかんないわー」
ぽにてが納得したように頷く。
「とはいえ、小口さんは、指原莉乃さんの”リアル親友”ってことで、2021年に放送されたテレビ番組で話題になったこともあるのですが、まあ、それでも5年前ですので・・・」
「知らんわ! 5年前なんて、うちら小学生だし」
話が脱線しかかったところで、ぽにてが話題を戻す。
「でもすごいね、30年でたった1人だけなんだ。なんか意外」
すると、まじかるが少し身を乗り出して、声を潜めた。

「では、ここで豆知識を一つお教えしましょう。むしろ、こちらが今日の本題といってもいいかもしれません」
「何? 何?」
二人も興味津々だ。
「ニコラでは、歴史上たった一人ですが、姉妹誌の『ニコプチ』には、現在、『桃』がつくお名前の方がたくさんいらっしゃるのをご存知ですか?」
「えっ、そうなの?」
そう言いつつ、ぽにてが記憶の糸を手繰り寄せる。
「あ、それ、分かるかも! えーと、桃瀬りむちゃんでしょ、それから・・
・真田桃羽ちゃん」
きんぱつも、ハッとして指を鳴らした。
「あとさ、漢字じゃないけど、雫月ももちゃんもいるし!それに読モの桃瀬ひなりちゃんもそうじゃん!」
「お見事、正解です」
まじかるが満足げに頷く。
「ちなみに、昨年(2025年)卒業されてしまいましたが、神田桃杏さんもいらっしゃいました」
「うわ、マジだ! めっちゃいるじゃん!」
きんぱつが改めて驚きの声を上げる。
まじかるは、ティーカップの縁を指でなぞりながら、結論を口にした。
「左様でございます。ニコラでは30年かけてたった1人だった『桃』が、ニコプチでは2025年の1年間だけで、なんと5人も同時に存在していたのです。実に興味深いデータだと思いませんか?」
「へえー!なんかおもしろいね、その違い!」
ぽにてが感心したように言った。
「お姉さん雑誌と妹雑誌で、そんなに名前の流行りとかが違うんだね」
スタバの喧騒の中、2人は改めてニコラの歴史の奥深さに想いを馳せつつ、まじかるの情報量に感心するのだった。