
いつものように、夕闇が差し込む放課後のオカルト研究会の部室。
魔法陣が描かれた机の上では、怪しげなお香の煙が細く立ち上り、3人の影を壁に長く映し出している。
「ねーねー、まじかる。星乃あんなちゃんたちが卒業する『ニコラ7月号』の表紙、どうなると思う?」
沈黙を破り、ぽにてが期待と不安の入り混じった声で切り出した。
「予言する際に重要なのは、実はデータだけではありません。編集長の性格を読み解くことも、大切なのでございます」
まじかるは、ゆっくり立ち上がると、ホワイトボードに向かって歩き始める。
「若狭編集長が就任してから4ヶ月。彼女が変えたこと、そして、あえて変えなかったことを分析すれば、自ずと答えは見えてきます」
ここで、きんぱつが身を乗り出す。
「変えたことって?」
まじかる、2人に向き直って。
「はい。例えば、表紙解禁の方法です。ここ数年、ニコラ最新号の表紙は、発売日のキッカリ1週間前に、編集部の公式インスタで公開されるという形が定着していました。しかし若狭編集長は、それを止めるのではなく、かといって、新たな方法を用いるでもなく、単にインスタでの解禁日を3日前にしたり、5日前にしたり、《ちょこちょこいじる》という手法を取ったのです」
きんぱつが、うなづく。
「たしかに〜! 最近ガチでバラバラなんですけど」
まじかる、続けて。
「さらに、ニコプチからの進級制度もそうです。若狭編集長は、20年近く続いて来た制度を廃止するわけではない。しかし、採用人数をこれまでの常識にとらわれず、一気に昨年の3倍、史上最多の6人に増やしました」
ここで、まじかるはホワイトボードに太い線を描く。

「要は、現編集長は決められたレールの上には乗るが、前任の馬場前編集長とは違う独自色を必ず入れてくる性格なのです」
「ひぇ~。もしかして、前の馬場編集長に、対抗心バチバチなんじゃね?」
きんぱつが面白そうにニヤリと笑った。
「さあ、深層心理までは分かりかねますが・・・。とにかく、こうなると7月号の表紙も例外ではありません。これまた、ニコラで数十年続く伝統である『卒業号では、卒モが必ず表紙に出る』という大枠のルールは守りつつ、馬場時代とは違う見せ方をしてくるはずです」
すると、すかさず。
「待って。馬場編集長時代の卒業表紙って、どうなってたっけ?」
ぽにてが記憶をたどり始めた。
「えっと、去年の卒業号は、生徒会長だった有坂心花ちゃんのピンで・・・、一昨年の卒業号は、たしか髙橋快空ちゃんたち人気モデル5人の選抜表紙だったよね」
指を折りながら、必死に答えを導き出した。
「あっ!?」
これを聞いて、きんぱつの目が丸くなる。
「おや、お気づきのようですね。はい、前任者がすでに『ピン』も『選抜』もやってしまった。となれば、若狭編集長が自分の代で『新しさ』を出し、かつ、読者を熱狂させるために残された道は、たった一つ」
ふたりの視線が、まじかるの唇に集中する。
まじかるは、たっぷり時間をとり、やがて、重々しく口を開いた。
「ご想像の通り、ニコラ7月号では、星乃さんたち卒業生が全員そろって表紙を飾る『卒モ全員表紙』が完全復活する。 これ以外にありえません」
一瞬の静寂。そして。
「キターーーーーッ!!」
きんぱつが机をバン! と叩いて叫ぶ。
「だよねっ! 9人全員で笑ってる表紙、私ゼッタイ見たいもん!」
ぽにての顔にも、パッと花が咲いたような笑顔が浮かんだ。
まじかるは、無言で頷くと、再び椅子に深く腰掛け、お香の煙の向こう側を見つめた。
「前任者が切り捨てた卒モ全員表紙の伝統を、あえて自分の手で『復活』させる。これこそ、若狭編集長がニコ読に提示する、最大のファンサービスであり、独自色と言えるのです。さて、信じるか信じないかは、皆さん次第でございます」
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