
夕闇が迫る放課後、人気のない旧校舎にあるオカルト研究会の部室。
魔法陣が描かれた床の上で、お香のミステリアスな香りが静かに立ち上っている。
テーブルには、これまでのニコラのデータが記された分厚いノートが広げられ、きんぱつたち3人は、コーヒーを啜りながら、4月1日発売号の表紙について、あれこれ話し合っていた。
「ねぇねぇ、『ニコラ5月号』の表紙、ずばり誰だと思う?」
ぽにてが、期待と不安の入り混じった表情で切り出した。
「卒業号っしょ? 星乃あんなちゃんたち『09世代』の集大成。普通に考えれば、卒業生がメインじゃね?」
きんぱつがスマホをいじりながら答えると、ぽにては同意するように頷いた。
そして、そのまま視線をまじかるに移して。
「まじかるは、どう思う?」
問いかけられたまじかるは、ゆっくりと立ち上がり、無言でホワイトボードへと向かう。
そして、マーカーを手に取り、スラスラと文字を書いた上で、2人に向き直り、口を開く。

「きんぱつさんのおっしゃる通りでございます。ニコラ5月号、つまり、最高学年の卒業号の表紙は、歴史的に見て、完全に二択となっております」
これに、ぽにてが首を傾げつつ尋ねる。
「えー、二択って? 何と何?」
「はい、具体的には、卒業する学年全員が登場する《全員パターン》と、卒モのうち人気上位の数名が登場する《選抜パターン》でございます。とくに後者の場合、現時点で表紙10回という圧倒的な実績を誇る星乃さんが、最有力候補になります」
「なるほど」
きんぱつと、ぽにては、顔を見合わせて納得する。
「では、過去のデータを見てみましょう」
まじかるはそう言うと、ホワイトボードの余白に、力強く数字を書き込み始める。

「今から20年ちょっと前となる2005年。そうです、あの新垣結衣さんたちが卒業した時代から、関谷瑠紀さんたちの2023年までの間、実に19年間も連続して、卒業号の表紙は《卒モ全員》で飾るというのが、ニコラの美しい伝統でした。しかし、つい最近になって、その鉄の掟が崩されたのです」
「あっ! 覚えてる! 一昨年のやつだよね?」
きんぱつが声を上げた。
「その通りです。髙橋快空さんたち2024年の卒業号です。当時、前年に就任した馬場編集長が、それまで長年続いた全員表紙の伝統を無理やり廃止したのです。その結果、髙橋さんはじめ9人いた卒業生のうち、表紙に出られたのは4人のみ。残りの5人は、最後の晴れ舞台に立つことが叶わなかったのです」
「うーん、それはちょっと切ないね・・・」
ぽにてが、手元の雑誌を寂しそうに見つめた。
「そして去年。有坂心花さんたち2025年の卒業号でも、表紙は選抜となったわけですが、ご存知の通り――」
「そうそう、心花ちゃんのピンだったんだ!」
「左様でございます。なんと卒業号をピン表紙で飾るという、驚愕の結果が待っていたのです」
「あれには驚いたよね。まあ、心花ちゃん推しの私としては嬉しかったけど」
ぽにて、当時を懐かしむように。
「ともかく、こうして現状、選抜パターンが2年続いているというとで、当然ながら2度あることは3度ある。今年も《選抜型》になると、多くの読者が考えているようです」
やや間をおいて、ぽにてが口を開く。
「うーん。普通に考えると、今年も選抜パターンかな?」
「それな」
ところが、きんぱつが同意した瞬間を見計らったかのように、まじかるが前提をひっくり返すようなことを語りだす。
「ですが、ここに来て巨大な『変数』が現れました」
まじかるは、瞳の奥を鋭く光らせた。
「そうです、去年12月、再び編集長が交代したのです。そしてここに来て、再び方針が転換され、伝統の『全員表紙』が復活する可能性が高まっているのです」
「えーーー!そうなの!?」
「マジかっ!?」
黙って聞いていた二人が、一斉に声をあげる。
「はい。なぜなら、今年の卒モである09世代は、絶対的エースである星乃さんを覗き、誰かを選ぶこと自体が非常に難しいからです」
続けて、まじかるは次々と名前を挙げていく。
「伊藤沙音さん&松田美優さんは《しゃのみゆ》コンビとして、根強い 読者人気を誇ります。工藤唯愛さんは、現役のアイドルとしての高い知名度が売りです。一方、青山姫乃さんは、女優として将来化ける可能性がある。星名ハルハさんは、動画部リーダーとしての貢献に加え、卒業後は『ViVi』行きもあり得る」
まじかる、さらに続けて。
「というわけで、見ての通り。星乃さんと一緒に、卒業号の表紙を飾る相方として、だれを選んでも一長一短。誰を選んでも角が立つ。逆に見ると、誰か一人をあえて外す理由も見当たらないのでございます」
「・・・ってことは?」
ぽにてが、期待を込めてまじかるを見つめる。
「はい。結論はただ一つ。ニコラ5月号は、卒業生9名による『全員表紙』の完全復活。 これ以外にあり得ません。今年の表紙は、まさに09世代の絆が彩る最高の一枚となるでしょう」
そして、おなじみの決め台詞が登場する。
「信じるか信じないかは、皆さん次第でございます」
ここで、あっけに取られていた、きんぱつが我に返って。
「3年ぶりの卒モ全員表紙キターーーーー! マジで願ってる!」
バシバシ机を叩いて大喜びするきんぱつに、うれしそうなぽにて。
部室は一気に明るい空気に包まれた。
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