
怪しげなお香の煙が、床に描かれた魔法陣に沿ってゆっくりと這い、部室の空気はさらに濃度を増していった。
まじかるは、テーブルに広げられたタロットカードの複雑な並びを見つめ、そこに示された「未来の数字」を読み解くように目を細めると、静かに口を開く。
「さて。驚くのは、まだ早うございます。予言 その1でお話ししたオーディションの統合は、あくまで『入り口』の話。次にお話しするのは、雑誌そのものの『存在』についてです」
まじかるは、バランスや調和を意味する「節制」のカードを、静かに逆位置に置いた。
「予言 その2。ニコラの発行形態は、現在の『月刊』から、年6回の『隔月刊』に、ゆくゆくは年4回の『季刊』へと移行します」
「ええっー!? それって、毎月ニコラが読めなくなるってこと?」
ぽにてが身を乗り出し、驚きの声を上げる。
「待って、マジ無理! 毎月の楽しみがなくなるってこと? ウチらのバイブス、どこでアゲればいいわけ!? てか、なんでそうなんのよ!」
きんぱつも、ネイルをいじっていた手を止めて絶叫する。
慌てる二人とは対照的に、まじかるはあくまで落ち着いている。
「理由は、極めて論理的でございます」
そう言うと、まじかるは淡々と、しかし容赦のない事実を突きつける。
「第一に、姉妹誌であり、ニコラよりも部数が多く出ているニコプチの動きです。ご存知の通り、あちらは去年、既に年6回の隔月発行から、年4回の季刊発行へとシフトいたしました。・・・皆さん、考えてみてください。より売れている方の雑誌が、発行回数を減らしたのです。部数で劣るニコラが、このまま毎月発行を維持できる道理があるでしょうか?」
これに、きんぱつ。反論を試みるが、言葉が出てこない。
「・・・確かに。お姉さん雑誌のニコラが、妹分のニコプチより、無理してるってことだもんね」
一方、ぽにては神妙な顔で頷く。
そんな二人の反応を確認すると、まじかるが続ける。
「第二に、より深刻なのが数字の問題です。ニコラの部数は年々減り続けており、5年前と比較して、今や5分の1にまで落ち込んでしまいました。その一方で、定価は上がり続けています」
まじかるは、指を3本立てました。
「2020年、ニコラの定価は520円でした。それが今や860円。・・・340円もの値上がりです」
「まあ、860円っていうのは、マジでエグいよね。スタバの新作 カカオ&ストロベリームース フラペチーノだって飲めちゃうじゃん!」
きんぱつが、お財布を握りしめるジェスチャーをする。
「ウチら中学生だよ。お小遣いなんて限られてんのに、毎月1000円近い出費は、マジでぴえん通り越してパオンなんですけど・・・」
「おっしゃる通りです。5年前なら、1年間の出費は520円×12冊=6,240円。ですが今は、860円×10冊=8,600円。読者のお財布事情を考えれば、毎月出すよりも、むしろ、回数を減らしてでも一冊の価値を高めた方が、結果的に買い続けることができる。・・・編集部はそう判断するのではないでしょうか」

「そして第三に、予言 その1で申し上げた『将来的な合併』への布石です。仮に合併が実現するとして、片方が月刊で、もう片方が年4回発行では、あまりにバランスが悪すぎます。両誌を統合し、一つの巨大ブランドとして再編するためには、まず、発行サイクルを合わせ、管理コストを最適化する必要があるのです」
こう言い切ると、まじかるは再生の象徴とされる「死神」のカードをテーブルの真ん中に叩きつける。
「よって、今年中にニコラは毎月発行という看板を下ろし、年6回発行の隔月刊誌へと姿を変えるでしょう」
顔を見合わせる二人。ややあって、ぽにてが口を開く。
「・・・なんか、納得しちゃった。悲しいけど、それが『生き残るための戦略』ってことなんだね」
呟くように言うと、寂しそうに魔法陣を見つめる。
「アゲなニュースかと思いきや、マジでシビアじゃん。でも、休刊っていう最悪の事態を回避できる上、一冊がもっと豪華になるっていうんなら、それはそれでアリ・・・なのかなぁ?」
きんぱつも、少し複雑な表情でため息をつく。
そんな二人を横目に、まじかるは、不敵な笑みを浮かべつつ、最後の一言を放つ。
「変化を恐れてはいけません。これはニコラが消える予言ではなく、新たな形で再生するための『脱皮』なのですから」
これを聞いて、きんぱつとぽにての表情に、若干ながら明るさが戻る。
「さて、信じるか信じないかは、皆さん次第でございます」


