三月の転校生

中学生雑誌ニコラに関する考察

【ホラー小説】無人島バトルロワイヤル~血塗られた生配信~

「おい、ここ本当にハワイなのか?」

ミユウの声が、不気味なほど静かな波音に吸い込まれていく。

本来なら、ニコラ創刊30年を祝う記念すべきハワイ全モロケ。真っ青な空の下、ニコモ27人全員で「アロハ~!」と笑顔で表紙を飾るはずだった。

しかし、目の前に広がるのは、湿り気を帯びた原生林と、無機質な灰色の砂浜。

そして、そんな砂浜には、リゾートワンピやサマードレスを着たまま、困惑して立ち尽くすニコモたちがいた。



「ハ・・・ハワイですよ、ここは! 絶対にハワイです! 誰がなんと言おうとハワイです! だって見てください、この植生!」

そんな重苦しい空気を読まず、新人モデルのカンナが、目を輝かせて声を上げた。

「すごい・・・すごいです! 本当に来ちゃったんですね、伝説のハワイに。ニコラの海外ロケは、鈴木美羽さんたち2014年のロサンゼルスと、清原果耶さんたち2017年のグアムを除いて、もう創刊早々から、ずっとハワイで固定なんです」

続けて。

「ところが、2020年にコロナで中止となると、以後、現在に至るまで、6年連続で実施されておらず、実質、終了状態となっていました。それがこうして2026年の今、7年ぶり復活するなんて・・・しかも全モ参加だなんて、私、私、感動です~♪」

カンナの「ニコラオタク」としての知識が止まらない。

彼女にとって、この異常事態すらもまだ「創刊30年の特別な演出」の一部に見えていたのだ。

しかし、ここで。

「カンナちゃん、うるさい。少しは周りを見なよ。これ、ただの撮影なんかじゃない」

冷たく言い放ったのは、ニコラ生徒会長のアンナだった。

女優としても活躍する彼女は、自分にも他人にも厳しいストイックな一匹狼。

隣では、彼女を慕う数少ない妹分のもんぢが、アンナの顔色を窺って縮こまっている。

と、その時。

砂浜の中央に設置された超大型モニターが、けたたましい音と共に起動する。

モニターには、ユーチューブのニコラ公式チャンネル「ニコラTV」のライブ画面が映し出されていた。

『え、これガチ? ハワイじゃないの?』 『みんな顔色悪くない? 演出?』 『くるちゃん可愛い!』 『何が始まるの? ワクワク!』

画面の端を猛スピードで流れる視聴者のコメント。

すると、次の瞬間。

画面中央に、凛としたスーツ姿の若狭編集長が、大きく映し出された。

「アロハ~。愛しいニコモの皆さん、そして画面の前のニコ読の皆様。素晴らしい目覚めを迎えられましたでしょうか?」

若狭の声は極めて丁寧で穏やかだった。しかし、その丁寧さがかえって、そこにいる少女たちの恐怖を煽る。

「若狭さん! 説明してくださいっ! 馬場さんは・・・馬場編集長はどこに行ったんですか? もう戻ってこないんですか?」

優等生で、頭の回転が早く、後輩たちからの信頼も厚いヒヨリが、みんなを代表する形で叫んだ。

これに、モニターの中の若狭は、一瞬だけ視線を落とし、かつての先輩の名を、慈しむような、それでいて冷徹な響きを含んだ声で口にした。

「・・・・馬場先輩ですか。彼女は、この企画に反対しました。最後まで、あなたたちを守ろうとして、この企画に同意しませんでした。そのため、編集部から排除されることになりました」

ニコモたちの間に、氷が走るような戦慄が広がった。自分たちを守ろうとした「ママ」のような存在は、もうこの組織にはいないのだ。

「そして急遽、姉妹誌『ニコプチ』の編集長である私が、ニコラの編集長も掛け持ちするように呼ばれたのです。新潮社の上層部が求めたのは、馬場先輩の情けではなく、私の合理性でした。今のニコラを救うには、あなたたちという『最高の商品』による、剥き出しの真実(リアル)が必要なのです」

《パチン》

若狭は、優雅に指を鳴らした。

その瞬間、27人の首に巻かれた金属製のチョーカーが、電子音と共に赤く点滅を始める。



「ルールは至極単純です。みなさんは、最後の一人になるまで、美しく戦い抜いてください。 手段は問いません。3日後、生存者が一人になった瞬間に、その一人が次号のピン表紙を飾る権利を得ます。それ以外の敗者の方々には・・・芸能界からの『物理的な卒業』をお願いすることになります」

これにクルミ

「物理的な卒業? 何それ! そんなの嘘ですよね?」

ユアも続いて。

「あの・・・私、来月から僕青の全国ツアー、始まるんですけど」

ニコラモデルはあくまで副業。それぞれ、「女優」「アイドル」という本業を持つ2人が、「芸能界卒業」という言葉に、即座に反応する。

しかし、若狭はあくまで丁寧に、事務的に続けた。

「そこに置いた銀色のデイパックに、皆さんの生存に必要なもの、そして戦うための『道具』を用意しました。馬場先輩が愛したニコラは、もう存在しません。さあ、最高の『表紙』を見せてくださいね。楽しみにしております」

モニターの映像が、戦慄する27人を捉えるドローン空撮へと切り替わる。 足元に転がされた27個のバッグ。

世界中が見守る中、ニコラ30年の歴史を塗り替える、最も過酷で残酷な「オーディション」が幕を開けた。