
お昼休みの教室。机をくっつけて、お弁当を広げた3人。話題はやっぱり、今年のニコラモデルオーディションのことだ。
「ねー、まじかる。ちょっと聞きたいんだけどさー」
きんぱつが、卵焼きを箸でつかんだまま身を乗り出した。
「もし、ニコモオーデに受かったら、賞金とか、もらえたりすんの? ガチで万札飛んでくるとか、そういう夢のある話ないわけ?」
「えー、さすがにそれは……」
ぽにてが苦笑いしながらブロッコリーを口に運ぶ。
「私たち、まだ中学生だし、現金は無いんじゃないかなぁ。それよりさ、ファッション誌なんだから、ブランドのお洋服がもらえたりするんじゃない? 新作コーデが一式、とか」
二人の期待に満ちた視線が、黙々とおにぎりを食べているまじかるに向けられた。
まじかるは、お茶を一口飲むと、静かに首を横に振る。
「残念ながら、現在のニコモオーディションに、賞金や賞品といった副賞はございません。合格者が得られるのは、『ニコラ専属モデルになれること』と、『事務所に所属できること』のみでございます」
「は? まじでそれだけ?」
きんぱつの声が裏返る。
「はい。・・・ですが」
ここでまじかるは少し声を潜めた。
「実は、ほんの少し前、具体的には松尾そのまさんや十文字陽菜さんが受かった2023年のオーディションまで、それはそれは豪華な副賞が用意されていた時代があったのです」
「え、そうなの!?」
ぽにてが目を輝かせる。
「まだ最近じゃん!」
きんぱつも興味津々だ。
「例えば、5年前のオーディションを見てみましょう。合格者には、ヘアアイロン、リュックサック、化粧品セット、ホーム脱毛器から、スニーカーに、レピピアルマリオの新作お洋服。そして極めつけは、最新のスマートフォン。その年によって協賛するメーカーは様々でしたが、『豪華6点セット』や『豪華8点セット』といった具合に、両手いっぱいプレゼントが贈呈されていたのです」
「えぐっ! 何それ、めっちゃ太っ腹じゃん!」
きんぱつが机をバンバン叩く。
「スマホまで!? ヤバすぎっしょ、その時代!」
まじかるは遠い目をした。
「さらに歴史を遡れば、『ニコ学制服』一式が編集部からプレゼントされていた時代もありました。ブレザーにスカート、リボンからエンブレムまで、合わせて約4万円相当となります。・・・まあ、きんぱつさんが期待するような『賞金』という形での現金支給は、過去一度もありませんでしたが」
「えー、そうなんだ。でもさ、なんで? なんで今は無くなっちゃったわけ? 編集部がケチになったとか?」
きんぱつが不満そうに唇を尖らせる。
まじかるは、少し悲しげに目を伏せた。
「・・・それが、時代の流れというものです。各企業がこぞって商品を提供していたのは、ニコラの部数が20万部を超えていた黄金時代です。雑誌に絶大な影響力があったからこそ、メーカー側も宣伝のために商品を無償で提供するメリットがあったのです」
「あ・・・」
ぽにてが何かを察したように息を飲む。
「以前もお話しした通り、今やニコラの部数は4万部にも満たない状況。雑誌の影響力が落ちれば、当然、スポンサーも離れていきます。無料で配る余裕など、もうないのかもしれません」
まじかるは淡々と、しかし残酷な現実を告げる。
「それに、協賛する側のファッションブランドやメーカー自体も、売り上げが低迷していて厳しい、という事情もございます」
「えっ!? ブランドも厳しいの?」
ぽにてが心配そうに尋ねる。
「はい。かつて『ニコラ三大ブランド』の一角を担ったラブトキシックを展開するナルミヤ・インターナショナルが、ピンクラテを展開するワールドに吸収合併されたり、ジェニィラブ、シスタージェニィ、ジェニィベルといった子供ブランドを展開した老舗ジェニィが自己破産したり・・・。さらには、コロナ禍の打撃もあり、アパレル業界全体が、皆さんが思う以上に厳しい冬の時代を迎えているのです」
教室の賑やかな声が、一瞬遠のいた気がした。
「そっか。ただ単に編集部がケチになったとかじゃなくて、業界全体が大変なんだね」
ぽにてが、しんみりとお弁当の残りを眺める。
「マジかー。世知辛い世の中だねぇ。副賞ナシとか、かなり残念な感じだけど、まあ無い袖は振れないってことか」
きんぱつも、さすがに少しテンションが下がった様子で、最後の唐揚げを口に放り込んだ。

「ごちそうさまでした」
まじかるは、静かに手を合わせた。そして、二人を励ますように。
「状況は厳しいですが、それでもニコラモデル自体が輝きを失ったわけでは決してありません。たとえ賞品が無くなっても、目指す価値は十分にあるはずでございます」